顎変形症を学ぶ

高額療養費制度について ~高額な医療費が数万~数十万円に

高額療養費制度の図

顎変形症の方が手術を伴う治療を受ける場合、ほとんどの方が払う手術費用は数万~数十万で済みます。

少ない金額で治療が可能な理由は、高額療養費制度によって大きな医療費補助のを受ける権利が全被健康保険者に与えられているためです。

顎変形症を含む病気に対して適用されるため、顎変形症治療を考える方は制度について学んでいきましょう。

記事の内容

・医療費補助額の区分

・顎変形症治療の費用例

・手続きの方法

「保険適用でも費用が超高額...」→高額療養費制度を活用しよう!

高額療養費制度について

高額療養費制度とは、被保険者に掛かる医療費の負担を減らす制度です。1つの月で掛かった費用が一定額を超えた場合に適用されます。保険適用であっても、治療に高額な費用が掛かってしまう際に、患者の負担を大幅に少なくしてくれます。簡単に言えば、「ひと月の費用が一定金額を超えたら、超えた分の金額は払わなくて良いよ」という制度です。

整形などすべての費用に適用されるわけではありません。制度には一定の条件については今記事で解説しています。

患者側は、制度で決められた金額のみを払います。対象であればひと月の医療費がどんなに高い場合でも、最終的な負担額は制度で決められた金額になります。

超えた分の治療費は払う必要はありません。患者さんには負担の上限はありますが、対象となる保険治療の金額に上限はないということになります。

なんで高額療養費があるの?

国民皆保険制度により、個人に掛かる保険医療の負担は大きく削減されています。しかし、手術などの高度な医療が治療のために必要な場合、医療費は保険による補助があったとしても、数十万、数百万かかってしまいます。これでは、たとえ裕福な人でも簡単には払えませんし、お金に困る人にとっては言うまでもなく、治療すら受けられないかもしれません。そこで、ある一定額を超える医療を受ける場合には、医療費を削減し誰もが医療を受けられるよう、一定の条件の下で、保険に加入する個人が保険医療で払う最大の金額=限度額が決められています。

仕組み

制度では、患者と病院の他、保険機関の3者が関わっています。保険制度と仕組みは同様なものになっています。

被保険者である患者は、保険者である保険機関に保険料を支払います。病気になった際には、病院に行き保険適用分(いわゆる3割負担)の費用を払います。それ以外の費用は後々保険機関から病院へ支払われます。

高額療養費制度でも同様で、申請をすることで高額な費用の一部を保険者が負担し、患者の最終的な負担を大きく抑えてくれます。

高額療養費制度制度の略図

最終的に支払う負担額=限度額の区分

制度ではいくつかの条件を基に、最終的に患者が支払う費用が決められています。これを限度額といいます。大きく、①年齢、②所得、③診療費で決まります。

①年齢は70歳以上or69歳以下の基準で分けられます。②所得と③診療費は所定のグラフで区分分けされています。

・70歳以上の場合

適用区分ひと月の上限額(世帯ごと)
外来(個人ごと)
現役並み​年収約1,160万円~ ​標報83万円以上/課税所得690万円以上​252,600円+(医療費-842,000)×1% ​
年収約770~約1,160万円 ​標報53万円以上/課税所得380万円以上円 ​167,400円+(医療費-558,000)×1% ​
​一般​​年収約370万円~約770万円 ​標報28万円以上/課税所得145万円以上​80,100円+(医療費-267,000)×1% ​
年収156万~約370万円 ​標報26万円以下 ​課税所得145万円未満等​18,000 ​(年144,000円)​57,600円​
住民非課税等Ⅱ 住民税非課税世帯 ​800024,600円​
Ⅰ 住民税非課税世帯 ​(年金収入80万円以下など) ​15,000円​
所得別限度額のグラフ(厚労省:「高額療養費制度を利用される皆様へ」より作成)

・69歳未満の場合

適用区分ひと月の上限額(世帯ごと)
ア​年収約1,160万円~ ​
健保:標報83万円以上 ​国保:旧ただし書き所得901万円超 ​
252,600円+(医療費-842,000)×1% ​
イ​年収約770~約1,160万円 ​
健保:標報53万~79万円 ​国保:旧ただし書き所得600万~901万円 ​
167,400円+(医療費-558,000)×1% ​
ウ​年収約370~約770万円 ​
健保:標報28万~50万円 ​国保:旧ただし書き所得210万~600万円​
80,100円+(医療費-267,000)×1% ​
エ​~年収約370万円
​健保:標報26万円以下 ​国保:旧ただし書き所得210万円以下​
57,600円​
オ​住民税非課税者​35,400円 ​
所得別限度額のグラフ(厚労省:「高額療養費制度を利用される皆様へ」より作成)

左に個人の所得、右に個人が最終的に払う上限額が書かれています。限度額を見ると、2つの年齢区分双方での上限は最大でも数十万円に抑えられています。

年齢別で見ると、70歳以上のグラフでは69歳未満のグラフにおける区分「エ」と「オ」の内容が変わっています。70歳以上では低所得者の区分が細かくされ、負担費用が少なくなっていることが分かります。

治療費を抑えられる!でも利用には少しだけ条件あり!

制度についての注意点

健康保険に加入する被保険者であることを前提に、大きく3点あります。

①自由診療ではなく保険診療が対象

ひと月に掛かった費用が対象

③制度の利用には期限内の自己申請が必要

①で「診療」という用語は、治療や診察など複数の行為をまとめて呼んだ総称です。保険による治療とそうでない治療を形容する際には、「診療」という言葉が使われます。紛らわしいですが、「診療」は治療と同様に捉えてください。

以下で説明します。

①自由診療ではなく保険診療であること

高額療養費制度はすべての病気治療を対象としていません。医療補助の対象となる場合は、保険医療の対象となっている保険診療に限られます。ここで、私たちが医療機関などで受ける治療=診療は、保険診療と自由診療の2つに分けられます。

前者は国民皆保険制度によって負担が3割とかになるやつです。後者はその逆で、全額負担となります。

診療が保険か自由なのかの区分は、様々です。ざっと簡単に言えば、2つは以下の様なものを対象としています。

・保険診療:一般的な病気や重篤な病気(がん等)、国に指定されている病気:顎変形症など

・自由診療:美容整形や手術に関わる差額ベッド代など

ひと月に掛かった費用が対象

グラフで示した通り、治療費が個人の上限額を超えた場合に制度が適用されます。制度では掛かった治療費を基にして給付額が決まりますが、その対象となる治療費は、「ひと月に掛かった費用」です。これのどこが注意点なの?というと

お金が余分にかかってしまう可能性がある

ことです。治療をするとき、特に入院が必要な時は入院した時の月と、退院するときの月が異なることがあります。その場合制度の利点を受けられない可能性があります。

例えば...

・限度額が5万7600円のAさんが、ケガで入院したとします。
・計5日間の通院が必要になり、保険適用でも毎日費用が3万円がかかります。
・その日は1月末で、治療は2月まで続きます。

高額療養費の計算の元となる費用は、ひと月当たりを計算するため、制度上で計算対象となる費用は、1月と2月の二月分に分かれます。

この場合、1月の費用は3万円、2月は9万円になります。

これらの治療費を基に、限度額を超えた部分が補助されます。Aさんの限度額は、5万7600円なので2月とは異なり1月の費用に対しては高額療養費制度が適用されないことになります。

治療がひと月になった場合、費用は12万円になります。限度額を超えた分は制度適用になるため、6万2400円が給付されます

赤線が限度額になっています。1月では3万円であるため限度額は超えず、制度非適用となります。一方2月は9万円となり、限度額を超えた分が制度によって補償されます。では治療がひと月で済んだ場合を見てみます。

①の月またぎの場合では1月の3万円分が制度対象外となっていました。今回はその分も治療費として加算されたことで、給付の対象額が3万円分多くなっています。そのため、限度額を超える分が大きくなり(つまり給付されるお金も増える)、結果として治療費が1月に収まる②の方が得であることが分かります。

③期限内の自己申請が必要な場合がある

被保険者が受けることができる同制度ですが、自動的に割引されるわけではありません。

制度適用の治療後2年までに患者自身が申請する必要があります。

加入保険によりますが、基本的には自己申告制のものとなっています。制度による医療費の補助は所得など複数の条件の下で決定され、保険のように全員が同じような補助を受けるわけではありません。

制度に該当し、どれくらいの金額を支給するかを各個人の状況ごとに決定するため、その判断の基となる「治療費」や「所得等」のデータを届け出ることが必要になります。

ただし、加入保険機関によっては申請が不要で自動的に給付されることもあります。

「慶応技術健康組合」では、高額療養費制度が適用となった場合の申請について説明しています。

医療費が高額になった際に支給される給付金(高額療養費・付加給付金)は、診療報酬明細書(レセプト)から自動計算し支給されるので個人からの申請は必要ありません。

高額な医療費を支払った(支払う)|保険給付いろいろ|健保のしくみ|慶應義塾健康保険組合 (keio.ac.jp)

注意点としていますが、治療から2年までに申請すれば何の問題もありません。個人で申請が必要かどうかは、加入する保険機関から確認してみましょう。

申請にはマイナンバーカードが便利!それ以外の方法もあります。

制度申請の各方法

申請の方法としては3つあります。

①高額療養費制度申請書による申請 

②限度額適用認定証による申請

③マイナ保険証(保険証紐づけ済みのマイナンバーカード)による申請

制度の発展やマイナンバーの登場で②と③が加わり3つになりました。最終的な負担額はすべて同じです。

違いとしては、の手続き給付のタイミングです。実は申請方法によって給付されるタイミングが異なり、退院して数か月後かすぐかの2つに分けられます。

3つの申請方法と給付のタイミング

        申請方法                 給付のタイミング
①高額療養費制度申請書による申請​A. 手術の数か月後に給付される場合​(病院窓口での会計は保険適用分)​
②限度額適用認定証による申請​B, 手術後の会計時すぐに給付される場合​(病院窓口での負担が限度額)​
③マイナ保険証による申請​

(Bについては、患者が制度適用の前提で限度額以上の費用が保険機関から病院へ直接支払われるため、患者側から見ては減額という形で給付されます。)

3つの申請の手続きについて以下で紹介します。

①高額療養費制度申請書による申請

加入する保険により異なりますが、手術した後に申請をすることで給与を受けることができます。申請には、自身の保険機関指定の書類を基に必要事項を記入し提出します。その際、金額を示す領収書などの書類が必要になります。

提出した資料を基に審査が行われ、限度額を超えた分が患者へ給付されます。書類の審査は長期間かかり、数か月になります。その為、患者への給付も数か月後まで待つ必要があります。参考;全国健康保険協会「健康保険限度額適用認定申請書」※申請を必要としない保険機関もあるため、加入する保険機関で制度についてご確認ください。

・必要書類を準備し手術後に申請をします。

・窓口の負担は保険適用の金額となります。

・限度額を超えた分は数か月後に支給されます。

②限度額適用認定証による申請

限度額認定証を申告することで、退院時の窓口で払う費用を限度額にすることができます。①の方法では、資料提出から審査→給付と給付までに時間がかかり、窓口の負担も限度額以上を払う必要がありました。そこで事前に申請することで、窓口の負担を最初から限度額に抑えられるようにしたのが②です。

認定証を得るためには、手術前に各保険機関が指定する申請書で手続きします。その後保険機関からもらった認定証と保険証の2つを病院の会計窓口で提出することで、会計での負担が限度額分のみで済みます。①の申請方法とは違い、限度額超過分はその場で差し引かれ、給付までの期間を待つ必要がありません。

・必要書類を準備し窓口精算時に提出します。

・窓口の負担は限度額分のみとなります。

③マイナ保険証による申請

保険証を登録したマイナンバーカード=マイナ保険証を使うと、制度利用がさらに簡単になります。この制度は①より金額の支給が早く、なお且つ②より必要な手間が少ないという利点があります。

患者が行うことは、マイナ保険証を専用の機械で読み取り、出てきた画面で制度申請を選択するだけです。

上図のように病院ではマイナ保険証を読み取る機器があります。この機器を使用することで、患者の所得や掛かった診療費等のデータを共有し、オンライン上で自動的に制度申請をすることができます。①とは異なり、申請によって限度額を超えた分はその場で差し引かれ、窓口での負担額は自身の限度額で済みます。そして②とは異なり、準備する書類はありません。

・病院の読み取り機にて制度申請を選択します。

・窓口の負担は限度額分のみとなります。

申請方法についてのまとめ

​申請方法 ①高額療養費制度申請書       ②限度額適用認定書   ③マイナ保険証
手続き​手術後加入保険機関へ申請​手術前加入保険機関へ申請、退院時に提出​入院時の読み取り機で申請​
給付タイミング​A. 審査後の数か月後​B. 窓口支払時(減額)​B. 窓口支払時(減額)​

マイナ保険証をお持ちの方は、③の方法を使えば特に準備する必要はありません。①の方法の意味としては、②、③の申請方法を忘れてしまい、手術後に制度を活用する方に向けたものとなっています。

おまけ:制度をお得に活用

①高額療養費申請書による申請は、手間がかかり、給付までの時間も長い為デメリットが多いように見えますが、一つだけお得な点があります。

それはクレカ払いによるポイントです。

①の場合の窓口負担は、限度額以上を含めた金額になります。そのため、クレジットカードで支払いをすれば、その分カード会社のポイントをもらうことができます。

例えば、楽天カード(100円で1ポイント)で窓口負担30万円を支払った場合・・・

300,000円÷100=3000ポイントがもらえることになります。

もちろん①でも最終的な負担額は限度額となるため、②、③と比べ最終的に支払った分のポイント分を獲得することができます。

手術費用の数十万をクレジットで払うため、①支払限度額(カードの利用限度額を超えていないか)確認と、②支払までの費用の用意を忘れずに!

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