顎変形症ってなんだろう?この記事では病気に関する概要を取り上げています!
顎変形症は様々な要因で引き起こる「病気」
顎変形症について
=様々な原因により顎の骨がズレてしまうことで、噛み合わせのや見た目の悪さにつながる病気
顎変形症とは顎の変形によって噛み合わせがズレる病気です。この噛み合わせのズレをまとめて「不正咬合」と呼びます。歯の土台となる顎自体がズレてしまうことにより、歯がかみ合わなかったり、顔の見た目がゆがんでしまったりなどの問題が起きます。
より正確に言えば、顎の骨の位置や大きさ、傾きが異常となることによって、
・咬合(こうごう)面:噛み合わせの悪さ
・審美(しんび)面:見た目の悪さ
の症状が引き起こされる病気を指します。
病気の原因
ズレの原因は時系列的に大きく、生まれつきである先天性、生まれてから起きる後天性なものに分けられますが、実は原因はよくわかっていないと言われています。
顎変形症の原因は様々ですが、多くの場合、明らかな原因は分かっていません。しかし、身内にも同じような症状の人がいたり、人種の違いによって生じやすい顎変形症があることから遺伝的な影響が大きいと考えられています。このような場合は、一般的にあごの変形は成長に伴って思春期以降に徐々に明らかになります。
顎変形症|一般社団法人 日本頭蓋顎顔面外科学会 (jscmfs.org)
後天性の場合の原因としてあげられるものには以下があります
・指しゃぶり
・舌で歯を押す癖
・頬杖
また、後天的な原因として口呼吸が原因となる可能性も指摘されています。
通常舌の位置は、
安静時は上顎の内側、口蓋と言われる口の天井部分に接触
し、この舌の力と頬の力がバランスよく調和することで、上顎の歯列の形と大きさが保たれます。
鼻詰まりなどで口呼吸をしていると、舌は下顎の内側に張り付いてしまうことがあり、慢性的な鼻詰まりによってこの状態が続くことで下顎前突症になりやすいとされる。
下顎前突症(かがくぜんとつしょう)とは (mipha-dental.com)
顎変形症の主な分類
顎とは上顎・下顎に分けることができます。顎骨の片方あるいは上下両方が変形することによって顎変形症になります。
そして、顎の変形は大きく以下の3要素に分解することができます。
・位置(骨の前後左右のズレ)
・大きさ(骨のサイズの大小)
・傾き(骨の平行さ)
顎と変形の要素
顎 | 要素 | ||
上顎/下顎 | 位置 | 大きさ | 傾き |
顎変形症とは、上下の顎において、上記3つの要素が単独・複数変形している状態を指します。
下顎の要素の内の位置がズレたり、両顎の大きさがズレていたりなど、複雑に組み合わさり顎変形症が引き起こされます。
顎変形症の例
下顎のズレ(いわゆるしゃくれ)のように下顎の変形から、上顎または上下顎の両方が原因となったりと病気の種類は様々に分けられます。位置のズレでも前後左右の三次元的なズレ、顎の大きさが逆に小さすぎる場合などもあり、病気の状態は多種多様になります。
要素別の変形とその分類の例
顎(上/下) | 位置 | 大きさ | 傾き | 分類 |
上顎 | ✔ | ✔ | | 上顎前突症など |
下顎 | ✔ | | ✔ | 下顎前突症(しゃくれ)など |
下顎 | ✔ | ✔ | 下顎非対称など |
例1:上顎前突症
顎 | 位置 | 大きさ | 傾き |
上顎 | ✔ | ✔ | |
上顎が大きく、位置が前にズレている状態
例2:下顎非対称
顎 | 位置 | 大きさ | 傾き |
上顎 | ✔ | ✔ |
下顎が大きく、傾いている状態
治療には基本的に外科手術が伴い、数年が掛かります
治療について
=大きな顎のズレが認められた場合、外科手術を行い治療します。手術の前後に歯の矯正も必要となり、治療の期間は数年が必要となります。しかし、矯正のみで治療できる場合もあります。
顎変形の治療は、大きく二つあります。
1矯正治療
2矯正治療+外科手術
ただし、通常顎変形症という病名を診断された場合、骨格的なズレが大きい状態となっています。その場合、歯のみを動かす矯正治療では、骨格におけるズレは治せる範囲を超えている場合が多く、治すには外科手術が必要になります。
顎の骨の変形状態を評価し、それぞれの状態にあった治療方法が選択されます。
手術の術式
外科手術を伴う場合、手術は症状に応じて単独・複数の術式を組み合わせた術式が選択されます。上下顎に変形があるように、上下それぞれに異なる複数の術式が存在します。
下顎の術式例
・下顎枝垂直骨切り術(かがくしすいちょくこつきりじゅつ):SSRO
・下顎矢状分割術(かがくしじょうぶんかつじゅつ):IVRO
上顎の術式例
・Le FortⅠ型骨切術:ルフォー
・上顎前方歯槽骨切り術(じょうがくぜんしぶしそうこつきりじゅつ)
上顎、下顎ともに、いくつもの術式が存在します。顎の変形状況により処置する部分が変わるため、複数の術式から最適な治療方法が選択されます。また、上下顎の手術をしても、噛み合わせや発音などに問題がある場合、顎の先端(オトガイ)に対して、長さを短くするオトガイ形成手術も併せて行われます。
治療期間
手術を伴う治療の場合、治療のための診断や術前後の歯の矯正が必要になり、長期間の治療となります。通常3~5年程度の期間が必要になり、以下の流れで治療が行われます。
①診断
顎変形症の治療にあたり、まずは顎変形症であるかどうかの診断が必要になります。CTなど専用機器を揃える矯正歯科などの機関で、骨の状態や噛み合わせの状態を診察します。医院によって混雑状況が変わるため、診断の結果がわかるまでには1ヵ月ほどかかることもあります。
また、顎骨の状況のもと専門的に判断を行い、手術が必要であるか否かを決定し、手術方法を策定します。診断の結果とともに手術の方法やリスクについて説明を受け、治療の合意をして初めて術前矯正が始まります。
②術前矯正
顎変形症と診断され、治療を開始するにあたって歯を骨格に対して正しい位置に動かす必要があります。歯の重なりや、悪い生え方を治し、骨格に対してすべての歯をまっすぐに整えます。患者の歯の並び方によるものの、手術のために完全にまっすぐな歯になっている状態が必要なことや、矯正完了後でも手術の予定が組めないなどもあるため、約1.5年ほどかかります。
③手術
骨格に対してまっすぐに並んだ歯がかみ合うよう、骨を移動させます。手術では顔の重要な神経を傷付けないように顎の骨を切り離し、動かせるように独立させます。その後、切り離した骨を上下左右の三次元的に移動させ、矯正した歯が噛み合う位置に合わせ、害のないチタン製プレートで固定します。患者の状態により、入院日数は変動するものの、約1週間の入院が必要となります。
④術後矯正
手術後のかみ合わせがズレないよう、歯を固定するための矯正を行います。手術後においてきれいに並んだ歯は、元の位置に戻ってしまうことがあります。手術後の嚙み合った状態が固定されるように、歯の固定を目的としてワイヤー矯正の他、インビザラインのような透明のマウスピースで矯正をします。
通常ワイヤー矯正である程度の期間歯を固定した後にワイヤーを外し、日常生活で目立ちにくく、付け外しできるマウスピースの矯正を行う流れになり、おおよそ1~1.5年ほど期間を要します。歯の状況の他、個人的な要望によってさらに長期間行うこともあります。
費用
手術を伴う治療を選択する場合、保険適用+高額療養費制度の利用で治療を受けることができます。双方の制度を合わせると、全体の治療費を大きく削減でき、おおよそ30~50万で治療を受けることができます。
保険制度では、通常料金の三割負担となります。しかし、手術を伴う治療であれば、3割でも数十万円はかかってしまいます。そこで登場するのが高額療養費制度です。保険でも高額な治療費を削減するための制度で、ひと月当たり一定額を超えた分は給付という形で自己負担額を減らすことができます。
69歳未満の所得別限度額のグラフ(厚労省:「高額療養費制度を利用される皆様へ」より作成)
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 | 252,600円+(医療費-842,000)×1% |
イ | 年収約770~約1,160万円 健保:標報53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% |
ウ | 年収約370~約770万円 健保:標報28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% |
エ | ~年収約370万円 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 | 57,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
グラフでは、所得で区分を5つに分け、右側にそれぞれの区分に該当する患者がひと月に払う最大の金額=限度額を表しています。
所得に限らず、どの患者に対しても大きな医療費補助が提供されていることが分かります。支払う限度額については、世帯の収入が少ないほど限度額が小さくなります。
一人が払う限度額は、3つの側面(①治療費、②年齢、③所得)によって決定します。100万円かかる保険医療を、年収370万円~訳770万円の69歳の人が受ける場合、上記グラフの公式より、最終的な自己負担額は8万7430円となります。